読切駄文
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君に届く思い
 ある小説の一節。
 架空の惑星にて、その星の覇権をかけて、異星人と戦争をしている人々の物語。
 主人公の戦車兵が新米の戦車長に尋ねられることがあります。
「戦争が長期化するのは、相手との意思伝達ができてないからではないのか?」
 そこで件の戦車兵が答えます。「意思伝達は行われています。
敵の弾が『殺したい』と言って飛んでくる。こちらも相手を『殺したい』と弾を飛ばしております。これほどはっきりした意思伝達はありません」
 少々悲しい事実、TRPGに戦いはつきものです。まるで呪いか宿命か!といわんがばかり何かと戦い勝ち抜かなければ、シナリオの終わりを掴み取ることができません。
 その戦いにおいて、物理的な意味で、あなたは敵をどこで捕らえることになるでしょう。
 息のかかる目と鼻の先か?、それとも個人用携帯火器の射程距離内か?果てはレーダーをはじめとする各種センサーの世界、人の目では追いきれない遙か遠くか。
 状況はどうあれ、テクニックとテクノロジーの粋をこらした戦いは、より遠くに、より正確に敵を倒すことを目標に進化し続けました。
 しかしながら先に書いた戦車兵の言葉を借りるなら、より遠くより正確に敵を倒す進化を遂げた戦い方は、自分と敵の意思伝達「殺したいという思いの弾を飛ばす」そのことが進化したという事ではないのか?
 コミュニケーション、互いの意思伝達方法と言えば普通面と向かっての会話から、パソコン上で行うチャットまで、媒体に乗せる内容は、I LOVE YOUから誹謗中傷に至り、コミュニケーション万歳と世界の真ん中で叫びたいところですが、ちょっと待っていただきたい。
 このコミュニケーションというやつ、根源的な問題を抱えながら、大概の人々が目を向けない問題があるのです。
 そう、自分がどれほど明確な意志を示したとしても、それを受ける側は、送り手の意志そのままの内容を受けてくれるかどうかは保証の限りではないのです。
 どういう事かって?
 例えば、このところよく聞くツンデレなんて人の態度ですが、実際トゲトゲしい態度で人に接しそんな印象を人に与えていたとしましょう。そんな人を観察したあげくその観察者が、そのツンデレさんに好意を持ってしまったとしたら・・・ここから先、そのような性癖の話をするところではないので割愛します。
 あなたの意志はちゃんと相手に伝わってますか?
 ここで「万事大丈夫」と大見得切る方々を発見した皆様、その万事大丈夫君を相手にするため、生暖かい視線の練習をしておきましょう。
 そこで今回冒頭に出てきた弾の飛ばし合いに話を戻すと・・・この鉄砲玉の応酬というのは、ほぼ明確な意志が一つしか感じられないのです。「しんでください」と。
 さてこの弾の飛ばし合い意思伝達の、物理的な距離の限界、がどこかと言えば、武器の射程距離のそれになるでしょう。
 何とも皮肉なお話ではないですか。人類の科学技術の発展、特に軍事に関わる発展は「おまえを殺す」という意志をより遠く、より正確に伝えることに費やされた。と見ることができるんです。
 もう一度言います。この弾の飛ばし合い意思伝達は、伝えたい意志が誤解されることがなく、より遠く、より確実に届くよう進化し続けてきた。そういうことなんです。その意志の内容は、「お前を殺す」に集約されますが。
 今日も我々は、TRPGで戦います。
 限りなく零距離で戦う人もいれば、アウトレンジからの戦う人もいるでしょう。
 そしてどんな距離にいても、彼我が戦える距離にいると言うことは、互いに「殺してやる」という意志を確実に伝える距離にいるわけです。そこに至る心的経緯の表層に、正義があろうが、誰かを守ろうという思いがあろうが関係はありません。確実に伝わるのは、お前を殺すという意志であり、運が良ければ、あなたの正義なり誰かを守護しようという意志が伝わるかもしれません。
 ヒットポイントの削り合いだけではないですよ。あなたにその気があろうとなかろうと、撃ってしまったからには、「殺してやる意思伝達コミュニティ」を形成した仲間なんですから。
 何?上の文章妙な矛盾があるって?
 でしたらあなたに次の言葉を贈りましょう。
「鉛弾に愛を乗せてI LOVE YOUを伝えたい。見事命中すれば、それこそ悲劇か喜劇か」
 お後がよろしいようで。

平成21年10月会報掲載

14/09/21 23:44更新 /

■作者メッセージ
 タイトルと中身のギャップが、一番笑える駄文と自負しております。
 モチーフは、神林長平様作「今宵銀河を杯にして」
 近代兵器の進化とコミュニケーションが、わっちの脳内で素敵なコラボをした結果、こんな駄文となりました。
 あぁ、ダメ文章家一直線。

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